人物
男が女より強いのは、
腕力と知性だけで、
腕力も知性もない男は、
女にまさるところは一つもない
女性はそもそも、
いろんな点でお月さまに似てをり、
お月さまの影響を受けてゐるが、
男に比して、
すぐ肥つたりすぐやせたりしやすいところもお月さまそつくりである
世界が必ず滅びるといふ確信がなかつたら、
どうやつて生きてゆくことができるだらう
芸術家といふのは自然の変種です
男の虚栄心は、
虚栄心がないやうに見せかけることである
死といふ事実は、
いつも目の前に突然あらはれた山壁のやうに、
あとに残された人たちには思はれる。
その人たちの不安が、
できる限り短時日に山壁の頂きを究めてしまはうとその人たちをかり立てる。
かれらは頂きへ、......
五十歳の美女は二十歳の美女には絶対にかなはない
若さが幸福を求めるなどといふのは衰退である
なぜ大人は酒を飲むのか。
大人になると悲しいことに、
酒を呑まなくては酔へないからである。
子供なら、
何も呑まなくても、
忽ち遊びに酔つてしまふことができる
どんなに平和な装ひをしてゐても「世界政策」といふことばには、
ヤクザの隠語のやうな、
独特の血なまぐささがある
無神論も、
徹底すれば徹底するほど、
唯一神信仰の裏返しにすぎぬ。
無気力も、
徹底すれば徹底するほど、
情熱の裏返しにすぎぬ
ユーモアと冷静さと、
男性的勇気とは、
いつも車の両輪のやうに相伴ふもので、
ユーモアとは理知のもつともなごやかな形式なのであります
裏切りは必ずしも悪人と善人のあひだでおこるとはかぎらない
男性は、
安楽を１００パーセント好きになれない動物だ。
また、
なつてはいけないのが男である
美女と醜女とのひどい階級差は、
美男と醜男との階級差とは比べものにならない
嫉妬こそ生きる力だ
人間、
正道を歩むのは却つて不安なものだ
男が金をほしがるのはつまり女が金をほしがるからだといふのは真理だな
男性は本質を愛し、
女性は習慣を愛する
感傷といふものが女性的な特質のやうに考へられてゐるのは明らかに誤解である。
感傷的といふことは男性的といふことなのだ
何か、
極く小さな、
どんなありきたりな希望でもよい。
それがなくては、
人は明日のはうへ生き延びることができない
青年の苦悩は、
隠されるときもつとも美しい
この日本刀で人を斬れる時代が、
早くやつて来ないかなあ
もし、
われわれが生の尊厳をそれほど重んじるならば、
どうして死の尊厳をも重んじないわけにいくだらうか。
いかなる死も、
それを犬死と呼ぶことはできないのである
「強み」とは何か。
知恵に流されぬことである。
分別に溺れないことである
男の世界は思ひやりの世界である。
男の社会的な能力とは思ひやりの能力である
正しい狂気といふものがあるのだ
この世に一つ幸福があれば必ずそれに対応する不幸が一つある筈だ
潔癖さといふものは、
欲望の命ずる一種のわがままだ
ほしいものが手に入らないといふ最大の理由は、
それを手に入れたいと望んだからだ
真の危険を犯すものは理性であり、
その勇気も理性からだけ生れる
法律とは、
本来ごく少数者のためのものなのだ。
ごく少数の異常な純粋、
この世の規矩を外れた熱誠、
・・・・それを泥棒や痴情の犯罪と全く同じ同等の《悪》へおとしめようとする機構なのだ
善意も、
無心も、
十分人を殺すことのできる刃物である
あまりに永い苦悩は人を愚かにする。
苦悩によつて愚かにされた人は、
もう歓喜を疑ふことができない
生きることが難しいなどといふことは何も自慢になどなりはしないのだ
人生が生きるに値ひしないと考へることは容易いが、
それだけにまた、
生きるに値ひしないといふことを考へないでゐることは、
多少とも鋭敏な感受性をもつた人には困難である
女を抱くとき、
われわれは大抵、
顔か乳房か局部か太腿かをバラバラに抱いてゐるのだ。
それを総括する「肉体」といふ観念の下（もと）に
どんな時代にならうと、
権力のもつとも深い実質は若者の筋肉だ
論敵同士などといふものは卑小な関係であり、
言葉の上の敵味方なんて、
女学生の寄宿舎のそねみ合ひと大差がありません
個人が組織を倒す、
といふのは善である
不安は奇体に人の顔つきを若々しくする
歌舞伎役者の顔こそ偉大でなければならない
寡黙な人間は、
寡黙な秘密を持つものである
このごろは、
ベタベタ自分の子供の自慢をする若い男がふえて来たが、
かういふのはどうも不潔でやりきれない。
アメリカ人の風習の影響だらうが、
誰にでも、
やたらむしやうに自分の子供の写真を見せたがる。......
やたらと人に弱味をさらけ出す人間のことを、
私は躊躇なく「無礼者」と呼びます
三島 由紀夫（みしま ゆきお、1925年〈大正14年〉1月14日 - 1970年〈昭和45年〉11月25日）は、日本の小説家、劇作家、俳優、ボディービルダー、随筆家、評論家、政治活動家。本名は平岡 公威（ひらおか きみたけ）。東京府東京市四谷区（現東京都新宿区）出身。