名言
小説の完全無欠のものに於ては、
画に画きがたきものをも描写し、
詩に尽しがたきものをも現はし、
且つ演劇にて演じがたき隠微をも写しつべし。
蓋(けだ)し小説には詩歌の如く字数に定限あらざるのみか、
韻などいふ械(くびかせ)もなく、
はたまた演劇、
絵画に反してただちに心に訴ふるをその性質(もちまえ)とするものゆゑ、
作者が意匠を凝らしつべき範囲すこぶる広しといふべし。
是れ小説の美術中にその位置を得る所以にして、
竟(つい)には伝奇、
戯曲を凌駕し、
文壇上の最大美術のその随一といはれつべき理由とならむも知るべからず
坪内逍遥
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坪内逍遥
坪内 逍遥(つぼうち しょうよう、旧字体: 坪逍遙、1859年6月22日(安政6年5月22日) - 1935年(昭和10年)2月28日)は、日本の小説家、評論家、翻訳家、劇作家。小説家としては主に明治時代に活躍した。代表作に『小説神髄』『当世書生気質』及びシェイクスピア全集の翻訳があり、近代日本文学の成立や演劇改良運動に大きな影響を与えた。本名は
坪内雄蔵
つぼうちゆうぞう
。別号に「朧ろ月夜に如くものぞなき」の古歌にちなんだ春のやおぼろ(春廼屋朧)、春のや主人など。俳句も詠んだ。