人物
花が露によって一層美しい如く、
涙の中の悲しい愛も、
それゆえに美しい愛である。
花の咲く草ばかりでなく、
名もない雑草も、
とげ草も、
矢張り野に生(お)うる権利を授かっている。
人にお世辞を云うのは、
云う人が考えるほど効果的ではない。
愛と憎しみは双生児である。
愛すればこそ憎むし、
憎むほどの想いがあって初めて愛するのだ。
野上 弥生子(のがみ やえこ、本名:野上 ヤヱ〈のがみ やゑ〉、旧姓:小手川、1885年〈明治18年〉5月6日 - 1985年〈昭和60年〉3月30日)は、日本の小説家。大分県臼杵市生まれ。夏目漱石の紹介で『縁』を発表して以来、写実主義に根差す作風と、理知的リアリズムとで市民的良識を描き続け、明治から昭和末期まで80年余の作家活動を行った。芸術院会員。文化勲章受章。