先が見えない夜に、人はなぜ前を向けるのでしょうか。状況が好転する保証はどこにもないのに、それでも心のどこかに小さな灯りがともる。その灯りの名前が「希望」です。
希望は、楽観とは違います。うまくいくと信じ込むことでも、悩みを見ないふりをすることでもありません。むしろ、深い絶望をくぐった人ほど、希望の輪郭をはっきりと語ってきました。
この記事では、詩人、作家、経営者、政治家、科学者、宇宙飛行士まで、古今東西の34の言葉を集めました。暗闇の中で光を探している日にも、これから何かを始めようとしている日にも、そっと寄り添う一節が見つかれば幸いです。
絶望の底で、光は生まれる
希望がいちばん鮮やかに語られるのは、たいてい最も苦しい場所です。まずは、逆境の只中から生まれた言葉を読んでいきます。
「希望は絶望の中にしか生まれない」
── 東野圭吾(小説家)
絶望を知らない人に、希望は必要ありません。足元が崩れたとき初めて、人は「それでも」と何かにすがろうとします。希望とは、絶望の裏側にあらかじめ張りついている影のようなものなのかもしれません。
「友よ、逆境にあっては、つねに、こう叫ばねばならない。「希望、希望、また希望」と」
── ヴィクトル・ユーゴー(フランスの作家)
亡命生活も経験したユーゴーらしい、力強い呼びかけです。同じ言葉を三度重ねるのは、一度では心が折れてしまう場面があるから。声に出して繰り返すこと自体が、折れかけた心を支える杖になります。
「己自身を悲しみに委(ゆだ)ねるのは危険だ。それは勇気と立ち直る希望を奪い去る。」
── アミエル(スイスの哲学者・作家)
悲しむこと自体は悪くありません。ただ、悲しみに身を任せきると、立ち直る力まで手放してしまう。涙を流したあとは、どこかで自分の手に舵を取り戻す必要がある、という静かな警告です。
「不幸を治す薬は希望より他にない」
── ウィリアム・シェイクスピア(イギリスの劇作家)
不幸を消してくれる魔法は存在しません。それでも、痛みを抱えたまま明日へ歩くための薬として、希望だけは誰にでも処方できます。高価でも特別でもない、いちばん身近な薬です。
「いかなる逆境、悲運にあっても、希望だけは失ってはならない。」
── 市村清(リコー三愛グループの創業者)
多くの事業を興した人の言葉だけに、きれいごとでは終わりません。お金も立場も失うことがある。それでも希望さえ手元にあれば、もう一度立て直せる。最後に守るべきものを教えてくれます。
「苦難の中には希望の入口がある」
── 孫正義(ソフトバンクグループの創業者)
苦難は、通り過ぎるだけの壁ではなく、扉でもあります。何も起きない平穏な日々には見えなかった入口が、苦しい時期にだけ現れる。そう考えると、目の前の困難の見え方が少し変わってきます。
「夜明け前が一番暗い」
── 作者不明
ことわざとして長く語り継がれてきた言葉です。いちばん暗く感じる瞬間は、夜の終わりが最も近い瞬間でもある。今がどん底だと感じるなら、それは朝が近い印かもしれません。
「でも、ぼくは知っている。暗くなって初めて、星が見えるのだと」
── マーティン・ルーサー・キング・ジュニア(アメリカの牧師・公民権運動の指導者)
暗殺される前日、1968年4月3日の「私は山頂に行ってきた」演説で語られた趣旨の言葉です。明るい昼間には見えなかった星が、闇が深まるほどに輝きを増す。絶望の濃さと希望の見えやすさは、じつは比例しているのです。
希望とは何か、を問う
希望は、気分ではなく態度なのか。人間だけが持つ力なのか。さまざまな立場から、希望の正体に迫った言葉を並べます。
「希望は鳥のようなもの。心の止まり木で羽を休め、詩のない歌を奏でる。そして、決してとどまることはない。」
── エミリー・ディキンソン(アメリカの詩人)
言葉にならないまま、静かに鳴り続ける歌。希望をそう描いた比喩は、世界でもっとも愛されたものの一つです。気づかないうちに、心のどこかでずっと歌っているのが希望なのかもしれません。
「希望は楽観主義ではない。それは世界に意味があると確信することだ」
── ヴァーツラフ・ハヴェル(チェコの劇作家・元大統領)
民主化運動の闘士だった人物の定義です。うまくいくかどうかを見積もるのが楽観主義なら、結果にかかわらず「これには意味がある」と信じて動くのが希望。成果が見えない仕事を続ける人に、深く響く一節です。
「めぐりくる季節は何をも裏切らない。何をも裏切らないのが、希望の本質だ。めぐりゆく季節が、わたし(たち)の希望だ。」
── 長田弘(詩人)
冬のあとには必ず春が来るように、季節は裏切らない。希望を気持ちの強さではなく、世界のめぐりに預けてしまう視点は、頑張りすぎている心をふっと軽くしてくれます。
「絶望とは「希望から離れる」ことです。つまり、希望を失わない限り、そこに絶望はないのです」
── ひすいこたろう(作家)
絶望を「状況」ではなく「希望との距離」として捉え直した言葉です。どれほど苦しくても、希望を手放さない限り絶望ではない。定義を変えるだけで、心の置き場所が見えてきます。
「希望は頼りにならないものであるが、心地よい道を経て、我々を人生の終わりまで運ぶことだけのことはしてくれる。」
── ラ・ロシュフコー(フランスのモラリスト)
冷静な人間観察で知られる著者らしく、希望の頼りなさも隠しません。それでも「最後まで運んでくれる」と認める。当てにならないからこそ、人はそれに身を預けて歩ける、という大人の肯定です。
「希望は貧しい人間のパンである」
── タレス(古代ギリシアの哲学者)
何も持たない人にも、希望だけは残されている。そしてパンのように、毎日食べなければ生きていけない。古代から、希望は人の暮らしの根っこを支える食べ物として語られてきました。
「希望は幸福の一種であり、おそらくこの世が与える最大の幸福である」
── サミュエル・ジョンソン(イギリスの文学者・辞書編纂者)
十八世紀に書かれた随筆に登場する一節で、続けて「過度の期待は痛みで償うことになる」とも戒めています。叶うかどうかの前に、希望を抱いている時間そのものがすでに幸福だ、という視点です。
「21歳の時、私の希望は無に帰した。それ以降のことは、すべておまけだ」
── スティーヴン・ウィリアム・ホーキング(理論物理学者)
若くして難病の宣告を受けた物理学者が、人生を「おまけ」と呼んで世界的な業績を重ねたことを思うと、この言葉は絶望の告白というより、軽やかな再出発の宣言にも読めます。一度ゼロになった人だけが持てる自由があります。
希望は、自分でつくるもの
待っていれば希望が届く、とは限りません。行動に変え、手を動かしてこそ希望は形になる。そんな実践派の言葉を集めました。
「人間は、希望がないと生きられない。希望というのは、自分で作らないといけない。向こうから希望が来るということは、まずありえない」
── 柳井正(ファーストリテイリング会長兼社長)
希望は与えられるものではなく、手作りするもの。厳しい言い方ですが、裏を返せば、誰でも今日から作り始められるということでもあります。小さな目標を一つ決めることが、その第一歩です。
「それを実現する方法を伴わない希望は、ただの希望のままで終わる。」
── W・エドワーズ・デミング(アメリカの統計学者・品質管理の父)
希望を否定しているわけではありません。希望に「方法」という脚をつけよう、という提案です。願うだけで終わらせず、最初の一歩を具体的にする。その習慣が希望を現実に近づけます。
「幸せの反対は不安。不安の正体は未来。未来は不確か。どちらにしろ不確かで根拠がないのであれば、自信を持ってもいい。それが希望ではないか?」
── 紀里谷和明(映画監督)
未来が不確かなのは、悪い結果が決まっていないからでもあります。不安にも自信にも根拠がないなら、せめて自分に都合のいい側に賭けてみる。その賭け方を、希望と呼んでみる発想です。
「パンドラの箱の底に、希望という名の妖精が隠れていたように、希望の種は必ずどこかにあるものなのだ」
── 三木谷浩史(楽天グループ創業者)
あらゆる災いが飛び出したあとの箱に、最後まで残っていたのが希望。そのギリシア神話を引いた言葉です。ひどい状況の底でも、探せば小さな種はある。探す目を持ち続けることが大切だと教えてくれます。
「希望があるところには必ず試練があるものだから」
── 村上春樹(小説家)
試練がやってくるのは、そこに希望があるから。つまり、試練に出会ったことは、大事なものに近づいている証拠とも読めます。つらい出来事を、悲観ではなく目印として受け取り直せる言葉です。
「希望が人間をつくる。大いなる希望を持て。」
── テニスン(イギリスの詩人)
人は持っている希望の大きさに合わせて育つ。だからこそ、小さくまとまらず大きな希望を持て、と背中を押します。すぐには叶いそうにない大きさでも構わないのです。それが人を引っ張ります。
「リーダーとは希望を売る商人だ。」
── ナポレオン・ボナパルト(フランス皇帝)
現実を直視しつつも、人々に進む方向を示し、その先に光があると信じさせる。それがリーダーの最大の役割だという見方です。家庭でも職場でも、人を導く立場に立つ人にとって示唆に富みます。
「希望を持ってください。自信を持ってください。良い教育を受けて力をつけてください」
── ミシェル・オバマ(元アメリカ大統領夫人)
若い世代に向けた、飾らない三つのお願いです。希望と自信、そして学びが一組になっているところが要。希望を抱くだけでなく、それを支える力を自分の中に育てていこうという励ましです。
命あるかぎり、歩みは続く
希望は、人が最後の瞬間まで持ち続けられる数少ないもの。年齢や境遇を越えて、歩く人を支えてきた言葉たちです。
「人は最後の瞬間まで、生きる希望に支えられるべきなのです」
── 日野原重明(医師)
終末期の患者に寄り添い続けた医師の言葉です。治療の成否だけでなく、残された時間をどう生きるかを支えることが医療の務めだ、という信念がにじみます。希望は、年齢や病を理由に取り上げていいものではありません。
「希望に満ちて旅行することは、目的地にたどり着くことより良いことである。」
── ロバート・ルイス・スティーヴンソン(スコットランドの作家)
結果よりも、期待しながら歩く道のりそのものに価値がある。目標を追っている最中は、達成していないことに焦りを感じがちですが、わくわくしている今この時間が、すでに豊かな成果なのだと気づかせてくれます。
「逆境においては、人は希望によって救われる。」
── メナンドロス(古代ギリシアの喜劇作家)
二千年以上前の劇作家がすでに、希望の救いを書き残していました。人間の苦しみと救いの構図が、時代を越えてほとんど変わっていないことに驚かされます。同じ道を歩いてきた無数の先人がいる、と思えるだけで心強くなります。
「行動は希望とは引き離せないものだ。希望はまさに人間にしかないものらしい。そこで、個人においては、希望の終わりは死の始まりと思いたまえ」
── シャルル・ド・ゴール(フランスの元大統領)
占領下のフランスで抵抗を呼びかけた人物の言葉と重ねると、一層重く響きます。希望を捨てることは、生きる意志を手放すことに等しい。だからこそ、行動して希望をつなぎ止め続けるのだと伝わります。
「誤りがあるところには真理を。疑いがあるところには信頼を。そして絶望があるところには希望をもたらすことができますように」
── マーガレット・サッチャー(元イギリス首相)
首相に就任した日の言葉として知られ、もとは聖フランチェスコの祈りに由来するといわれます。希望は自分のためだけのものではなく、絶望している誰かへ運んで届けるものでもある、という発想に気づかされます。
「いやな思い出を忘れることができるからこそ、人間は希望を持って生きられるのかも知れない。」
── 樫山純三(実業家)
過去を全部覚えていたら、前を向くのは難しいかもしれません。忘れることを欠点ではなく、希望のための機能と考える見方です。思い出せない過去があっても、それは前に進むための優しさなのだと思えてきます。
「我々は来た時と同じように、ここを去る。神が望むなら、いつかまた戻ってくるだろう。全人類への平和と希望を携えて」
── ユージン・サーナン(アポロ17号の宇宙飛行士)
1972年、人類が月面に立った最後の日の言葉の抄訳です。月から振り返った地球は、あまりに小さくて美しい。その場所から発せられた「平和と希望」という願いには、特別な説得力があります。
冬のあとに、春が来る
最後に、いまは見えなくても必ず来る朝と春を信じる、三つの言葉を贈ります。
「冬来たりなば、春遠からじ」
── パーシー・ビッシュ・シェリー(イギリスのロマン派詩人)
『西風に寄せるオード』の結びで「冬が来たなら、春はまだ遠いだろうか」と問いかける一節が、この言い回しの由来です。寒さが厳しいほど、春の訪れは目前に迫っている。静かで確かな信頼を、短い言葉に込めています。
「信仰とは、夜明けがまだ暗いうちに光を感じて歌う鳥である」
── ラビンドラナート・タゴール(インドの詩人・思想家)
詩集『迷い鳥(Stray Birds)』の一節です。周りはまだ真っ暗なのに、鳥は朝の光を先に感じて歌いだす。確証がなくても光を信じて動き出す心こそ、希望のいちばん純粋な形なのかもしれません。
「待てば海路の日和あり」
── 作者不明
海が荒れて船が出せなくても、辛抱強く待てば、やがて穏やかな航海日和がやってくる。あきらめずにいれば好機は巡るという、ことわざの励ましです。焦らず待つこともまた、希望の一つの形なのです。
希望は、状況が良くなってから届くものではありません。暗闇の中で、小さく灯すものです。今日読んだ言葉の中から一つでも、あなたの心の止まり木になるものがあれば、それが明日へ向かう静かな力になるはずです。