人物
とにかく僕は何か一つの道に徹底したいよ。
差し当たり僕はどうもその事を願わずにはおられない。
驕(おご)るものは心ではなく、
小さな頭脳である。
おれは弱すぎる。
なぜこう人を求めるのか。
あとで必ず後悔することがわかっているくせに。
奇麗な靴を穿いている者は心して泥濘(ぬかるみ)をよける。
だが一旦靴が泥にそまると、
段々泥濘を恐れなくなる。
世の荒い波風よ。
一つ思い切り俺をたたき据えてみよ。
俺は自分がほん物の鉄か、
まがい物の鋳物か、
知りたいのだ。
長與 善郎(ながよ よしろう、新字体:長与 善郎、1888年(明治21年)8月6日 - 1961年(昭和36年)10月29日)は、日本の小説家、劇作家、評論家。白樺派作家として人道主義的な作風で知られた。