名言大学

人間だけが 息つくひまなく動きまわり 忙しさとひきかえに 大切なものを ぽとぽとと落としてゆきます

あなたはエジプトの王妃のように たくましく 洞窟の奥に座っている あなたへの奉仕のために 私の足は休むことをしらない あなたへの媚(こび)のために くさぐさの虚飾に満ちた供物を盗んだ けれど私は一度も見ない 暗く蒼いあなたの瞳が 湖のように ほほえむのを 睡蓮のように花ひらくのを

落ちこぼれ 和菓子の名につけたいようなやさしさ 落ちこぼれ 今は自嘲や出来そこないの謂 落ちこぼれないための ばかばかしくも切ない修業 落ちこぼれこそ 魅力も風合いも薫るのに

もはや できあいの思想には倚りかかりたくない もはや できあいの宗教には倚りかかりたくない もはや できあいの学問には倚りかかりたくない もはや いかなる権威にも倚りかかりたくない ながく生きて 心底学んだのはそれぐらい

なぜだろう 萎縮することが生活なのだと おもいこんでしまった村と町 家々のひさしは上目づかいのまぶた おーい 小さな時計屋さん 猫背をのばし あなたは叫んでいいのだ 今年もついに土用の鰻と会わなかったと

軌道を逸れることもなく いまだ死の星にもならず いのちの豊饒を抱えながら どこかさびしげな 水の星 極小の一分子でもある人間がゆえなくさびしいのもあたりまえで あたりまえすぎることは言わないほうがいいのでしょう

あらゆる仕事 すべてのいい仕事の核には震える弱いアンテナが隠されている きっと…わたくしもかつてのあの人と同じぐらいの年になりました たちかえり 今もときどきその意味をひっそり汲むことがあるのです

わたしが一番きれいだったとき 街々はがらがら崩れていって とんでもないところから 青空なんかが見えたりした わたしが一番きれいだったとき まわりの人達がたくさん死んだ 工場で 海で 名もない島で わたしはおしゃれのきっかけを落としてしまった

「こんな時代を生きる若者を軽々しくののしるな」と大人に言いたい。
しかし、
当の若者たちには冷徹にこの言葉を渡したい。
駄目なことの一切を 時代のせいにはするな わずかに光る尊厳の放棄 自分の感受性くらい 自分で守れ ばかものよ

ぱさぱさに乾いてゆく心をひとのせいにはするな みずから水やりを怠っておいて 気難しくなってきたのを友人のせいにはするな しなやかさを失ったのはどちらなのか

わたしが一番きれいだったとき わたしはとてもふしあわせ わたしはとてもとんちんかん わたしはめっぽうさびしかった

私の意志で、
葬儀・お別れ会は何もいたしません。
この家も当分の間、
無人となりますゆえ、
弔慰の品はお花を含め、
一切お送り下さいませんように。......

初々しさが大切なの 人に対しても世の中に対しても 人を人とも思わなくなったとき 堕落が始まるのね

初心消えかかるのを暮しのせいにはするな そもそもがひよわな志にすぎなかった

苛立つのを 近親のせいにはするな なにもかも下手だったのはわたくし

わたしが一番きれいだったとき 誰もやさしい贈り物を捧げてはくれなかった 男たちは挙手の礼しか知らなくて きれいな眼差だけを残し皆(みな)発っていった

一人でいるのは 賑やかだ 賑やかな賑やかな森だよ 夢がぱちぱち はぜてくる よからぬ思いも 湧いてくる エーデルワイスも 毒の茸も 一人でいるのは 賑やかだ 賑やかな賑やかな海だよ 水平線もかたむいて 荒れに荒れっちまう夜もある なぎの日生まれる馬鹿貝もある

わたしが一番きれいだったとき わたしの国は戦争で負けた そんな馬鹿なことってあるものか ブラウスの腕をまくり 卑屈な町をのし歩いた

死こそ常態 生はいとしき蜃気楼

気難かしくなってきたのを友人のせいにはするなしなやかさを失ったのはどちらなのか

ばさばさに乾いてゆく心を ひとのせいにはするな みずから水やりを怠っておいて

もっと強く願っていいのだ わたしたちは明石の鯛が食べたいと もっと強く願っていいのだ わたしたちは幾種類ものジャムがいつも食卓にあるようにと もっと強く願っていいのだ わたしたちは朝日の射す明るい台所がほしいと

大人になってもどぎまぎしたっていいんだな ぎこちない挨拶 醜く赤くなる 失語症 なめらかでないしぐさ 子供の悪態にさえ傷ついてしまう 頼りない生牡蠣のような感受性 それらを鍛える必要は少しもなかったのだな

ことば ことば おんなのことば しなやかで 匂いに満ち あやしく動くいきものなのだ ああしかしわたくしたちのふるさとでは 女の言葉は規格品 精彩のない冷凍もの わびしい人口の湖だ

いとしい人には 沢山の仇名をつけてあげよう 小動物やギリシャの神々 猛獣なんかになぞらえて 愛しあう夜には やさしい言葉を そっと呼びにゆこう 闇にまぎれて

大人になるというのは すれっからしになることだと 思い込んでいた少女の頃、
立居振舞の美しい 発音の正確な素敵な女のひとと会いました そのひとは私の背のびを見すかしたように、
なにげない話に言いました。
初々しさが大切なの。
人に対しても世の中に対しても。
人を人とも思わなくなったとき 堕落が始るのね 堕ちてゆくのを 隠そうとしても 隠せなくなった人を何人も見ました 私はどきんとし、......

人間は誰でも心の底に しいんと静かな湖を持つべきなのだ

ひとりの人間の真摯な仕事は おもいもかけない遠いところで 小さな小さな渦巻きをつくる

わたしが一番きれいだったとき わたしはとてもふしあわせ わたしはとてもとんちんかん わたしはめっぽうさびしかった だから決めた できれば長生きすることに 年とってから凄く美しい絵を描いた フランスのルオー爺さんのように ね

一人でいるのは賑やかだ 誓って負け惜しみなんかじゃない 一人でいるとき淋しいやつが 二人寄ったら なお淋しい おおぜい寄ったなら だ だ だ だ だっと 堕落だな

道でばったり奥様に出会い 買い物籠をうしろ手に 夫の噂 子供の安否 お天気のこと 税金のこと 新聞記事のきれっぱし 蜜をからめた他人の悪口 喋っても 喋っても さびしくなるばかり 二人の言葉のダムはなんという貧しさだろう やがて二人はいつのまにか 二匹の鯉になってしまう 口ばかりぱくぱくあけて 意味ないことを喋り散らす 大きな緋鯉に! そのうち二匹は眠くなる 喋りながら 喋りながら だんだん気が遠......

年老いても咲きたての薔薇 柔らかく 外にむかってひらかれるのこそ難しい

満員電車のなかで したたか足を踏まれたら 大いに叫ぼう あんぽんたん! いったいぜんたい人の足をなんだと思ってるの

落ちこぼれの実 いっぱい包容できるのが豊かな大地 それならお前が落ちこぼれろ はい 女としてとっくに落ちこぼれ 落ちこぼれずに旨げに成って むざむざ食われてなるものか 落ちこぼれ 結果ではなく 落ちこぼれ 華々しい意思であれ

だいたいお母さんてものはさ しいんとしたとこがなくちゃいけないんだ

おばあちゃまは怒る 梅干ばあちゃま 魚をきれいに食べない子は追い出されます お嫁に行っても三日ともたず返されます 頭と尻尾だけ残し あとはきれいに食べなさい お嫁になんか行かないから 魚の骸骨みたくない

言葉が多すぎる というより 言葉らしきものが多すぎる というより 言葉と言えるほどのものが無い この不毛 この荒野 賑々しきなかの亡国のきざし さびしいなあ うるさいなあ 顔ひんまがる

なぜ国歌など ものものしくうたう必要がありましょう おおかたは侵略の血でよごれ 腹黒の過去を隠しもちながら 口を拭って起立して 直立不動でうたわなければならないか 聞かなければならないか 私は立たない 坐っています

戦争責任を問われて その人は言った そういう言葉のアヤについて 文学方面はあまり研究していないので お答えできかねます 思わず笑いが込みあげて、
どす黒い笑い吐血のように 噴きあげては 止り また噴きあげる

生きてゆくぎりぎりの線を侵されたら 言葉を発射させるのだ ラッセル姐御の二丁拳銃のように 百発百中の小気味よさで

はじめての町に入ってゆくとき わたしはポケットに手を入れて 風来坊のように歩く たとえ用事でやってきてもさ お天気の日なら 町の空には きれいないろの淡い風船が漂う その町の人たちは気づかないけれど はじめてやってきたわたしにはよく見える なぜって あれは その町に生まれ その町に育ち けれど 遠くで死ななければならなかった者たちの 魂なのだ そそくさと流れていったのは 遠くに嫁いだ女のひとりが ......

子供たちには ありったけの物語を話してきかせよう やがでどんな運命でも ドッジボールのように受けとめられるように

年老いても咲きたての薔薇 柔らかく 外にむかってひらかれるのこそ難しい

はじめての町に入ってゆくとき わたしの心はかすかにときめく そば屋があって 寿司屋があって デニムのズボンがぶらさがり 砂ぼこりがあって 自転車がのりすてられてあって 変わりばえしない町 それでもわたしは十分ときめく

まきこまれ ふりまわされ くたびれはててある日 卒然と悟らされる もしかしたら たぶんそう 沢山のやさしい手が添えられたのだ 一人で処理してきたと思っている わたくしの幾つかの結節点にも 今日までそれと気づかせぬほどのさりげなさで